臨床で活かすバイオダイナミクス

東京スクール・オブ・オステオパシー 特別セミナー全文文字起こし
講師:ドクター・スティーブン・キセル(校長)
はじめに
皆さん、おはようございます。私の名前はスティーブン・キセルです。アメリカでオステオパシー医師となって10年になります。私は東京スクール・オブ・オステオパシー(TSO)の校長であり、カリキュラムの設計者でもあります。今日、皆さんとこうしてご一緒できることを心から嬉しく思っています。
本日は、当校のカリキュラムの詳細とともに、先週のトークセッションでも触れた「バイオダイナミクス」について、そしてオステオパシーがどのように現代医療の中に統合されているのかについてお話しします。
お話ししている途中でも、質問やコメントがあれば遠慮なく挙手してください。今日は私からの一方的な講義ではなく、皆さんとの対話形式で進めていきたいと思っています。
カリキュラムについて
まず、当校のカリキュラムについてご説明します。現在の在校生からのフィードバックや、ヨーロッパ、カナダの学校の事例を参考に、より学びやすい形へとアップデートしました。
【タイプ2:医療資格をお持ちの方】
日本ですでに何らかの医療資格(理学療法士、柔道整復師、鍼灸師など)をお持ちの方は、卒業までの期間は3年間となります。
- 座学: 合計1,000時間(Zoomクラスと対面クラスを併用)。
- 臨床経験: 合計1,000時間。これまでの仕事や訓練での臨床時間もカウントされます。
- 継続学習: 3年間のトレーニング修了後も、学校のコースには自由にご参加いただけます。特に人気の高いバイオダイナミクスのクラスも継続して学べます。
- 負担の軽減: 受講生が続けやすいよう、Zoomの時間は1ヶ月最大8時間程度に集約していく予定です。
【タイプ1:医療資格をお持ちでない方】
3年間の基礎的な学業を終えた後、それぞれの状況に合わせて残りのカリキュラムを調整し、無理なく続けられるようサポートいたします。
アメリカにおける医療としてのオステオパシー
アメリカでは、オステオパシーは医療システムに完全に組み込まれています。オステオパシー医師(D.O.)は、西洋医学の医師(M.D.)と全く同じ教育を受けた上で、さらにオステオパシー独自の徒手療法を専門的に学んでいます。
私たちは「人間はボディ、マインド、スピリットの統一体である」というレンズを通してすべてを診ます。「構造と機能は関連している」という原則に基づき、薬剤だけに頼るのではなく、手を使って身体の機能を整えていきます。病気になる前の問題を解消する「予防」を非常に大切にする包括的なアプローチです。
病院における具体的な臨床例
現在、病院では西洋医学の医師(MD)からオステオパスへ、さまざまな症状についてコンサルテーション(相談)が寄せられます。
1. 新生児・小児のケア
新生児の治療は私たちの得意分野です。
- 吸啜障害: 赤ちゃんがうまくおっぱいを飲めない場合、分娩時に頭蓋にかかったストレス(ストレイン)を調整します。迷走神経が通る後頭骨付近を治療することで、すぐに結果が得られ、赤ちゃんがスムーズに授乳できるようになります。
- 斜頭症: 頭蓋骨の形状の異常に対しても、正常化の手助けをします。
- 薬物離脱ケア: 母体からオピオイドなどの影響を受けて生まれた赤ちゃんに対し、解毒を促すリンパ治療や自律神経の調整を行い、離脱症状を乗り越えるサポートをします。
- 呼吸器疾患: 横隔膜や胸郭への治療により、肺に空気が入りやすくし、治癒を促進します。
2. 産後ケア
分娩後の骨盤や腰の問題が慢性化する前に治療を行い、早期回復を促します。
3. 術後ケアと外科との連携
外科医からも術後のケアとして高い信頼を得ています。
- 術後イレウス(腸閉塞): 開腹手術後に腸が動かなくなった患者に対し、内臓テクニックや自律神経系(迷走神経、仙骨神経叢)への治療を行い、早期に腸の動きを蘇らせます。
- 心臓血管外科との連携: 胸郭の手術後にオステオパシーを行うことで、痛みが早く治まり、痛み止めの使用量や肺炎の発症率を抑え、退院までの期間を短縮できています。
4. 内科疾患と疼痛管理
- 体液管理: うっ血性心不全などによる浮腫に対し、リンパ系や排液経路を開く治療を行い、回復を助けます。
- 原因不明の痛み: 非定型的な胸の痛みや、帯状疱疹後の神経痛など、適用範囲は非常に広範です。
オステオパシーは単なる筋骨格系の治療ではありません。あらゆる疾患に対して有効であり、自律神経のバランスを整え、第1次呼吸(生命の息吹)への気づきを持って、生理機能全体の調整を行います。
緩和ケアと「死へのプロセス」
緩和ケアにおけるオステオパシーの役割についても質問がありました。私たちは死に向かいつつある患者さんのケアも大切にしています。
- 痛みの管理と安らぎ: 身体のストレインを解消し、意識をニュートラルな状態に導くことで、真の自己を再認識し、穏やかな時間を過ごせるようサポートします。
- スピリチュアルな帰還: ドクター・スティルは、身体を「第2の胎盤」と呼び、生きることはスピリットへと戻る準備であると考えました。死というプロセスを「超自然界への再誕生」として捉え、薬剤の使用を抑えながら、平和で楽な移行をサポートします。
質疑応答
Q1: 中枢感作(痛みの過敏化)へのアプローチは?
自律神経系と中枢神経系に対して深くアプローチします。患者さんが深いニュートラルな状態に入るのを手助けすることで、神経系が再調整され、静寂の中で治癒力が引き出されます。奥深くにあるトラウマをゆっくりと溶かし、神経の過敏性を軽減していきます。
Q2: 施術後に体調が悪くなることはありますか?
どのような治療でも可能性はゼロではありませんが、バイオダイナミクスでそれが起こる場合、多くは「術者のエゴや意識が強すぎたとき」です。患者さんのペースを無視してこちらの希望を押し付けると、同期のズレが生じます。
だからこそ、私たちは最後に「リバランス」を必ず行い、施術者の影響を消して、患者さんが安全な状態で帰宅できるように細心の注意を払っています。
Q3: パーキンソン病への効果は?
多くの患者さんを診ていますが、運動機能やバランス感覚の改善、進行を遅らせる効果を感じています。月に1回程度の定期的なケアによって、生活の質(QOL)を保ち、急激な機能低下を防ぐことができます。
Q4: 施術時間はどのくらいですか?
通常は15分〜45分程度です。初診の方は1時間ほど時間を取りますが、熟練すればするほどヘルス(健康)との同期が早まり、15分程度の短いセッションでも非常に高い効果が得られるようになります。
Q5: 鍼灸や理学療法との違い・併用は?
併用は可能ですし、相乗効果があります。理学療法が主に筋骨格系をターゲットにするのに対し、オステオパシーは心・体・霊、そして生理機能やあらゆる病理までを包括的に診るという点が異なります。
バイオダイナミクス:フェーズ1〜9の旅
バイオダイナミクスの学習は、施術者自身の意識と知覚を進化させる壮大な旅です。
- フェーズ1: 可動域検査から「そこにある動き」への同期。
- フェーズ2: 液体ボディー(Fluid Body)の知性を学ぶ。
- フェーズ3: 自然界とロングタイド(長い息吹)の学習。
- フェーズ4: ミッドラインとイグニッション(点火)。
- フェーズ5: 無限の空間と代謝の場における治療。
- フェーズ6: 第2次呼吸と広大な風景の理解。
- フェーズ7: 患者さんの中にある完璧な「健康(ヘルス)」そのものに触れる。
- フェーズ8: 全体性の変容。
- フェーズ9: あらゆるものが生まれる「背景にある力(Void)」との対話。
この学びを通じて、私たち自身も大きく変わります。忘れていた自分自身の側面に出会い、意識が変化することで、より深いレベルでの治療が可能になります。
結びに
オステオパシーは、単なる知識の習得ではなく、患者さんの生命に深く寄り添い、共に健康を最大化していく道です。
今日、こうして皆さんと時間を共有できたことを光栄に思います。近い将来、この学校で皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。ありがとうございました。
